クルアーンの逸話(2/4):守護された碑板から人類へ
説明: クルアーンが啓示後、いかに暗記され写本となったかについて。
- より アーイシャ・ステイシー
- 掲載日時 10 Jun 2013
- 編集日時 11 Jun 2013
- プリント数: 76
- 観覧数: 19,643 (日平均: 5)
- 評価者: 0
- メール数: 0
- コメント日時: 0
“このようにわれは、わが命令によって、啓示(クルアーン)をあなたに下した。あなたは、啓典が何であるのか、また信仰がどんなものかを知らなかった。しかしわれは、これ(クルアーン)をわがしもべの中からわれの望む者を導く一条の光とした。(ムハンマドよ、)あなたは、それによって(人びとを)正しい道に導くのである。”(クルアーン42:52)
神の最後の使徒である預言者ムハンマド(神の慈悲と祝福あれ)には、2段階に渡ってクルアーンが啓示されました。神の完璧な言葉は人類を暗闇の中から光へと導くために下されました。それは導きと慈悲なのです。クルアーンは被造物に対する、完全な神による完全な言葉です。イスラーム暦のラマダーン月における「みいつの夜」として知られる夜に、クルアーンは守護された碑板1から諸天の中の最下層へと下されました。その後、天から地上へと下されたのです。
啓示は、天使ガブリエルを介して預言者ムハンマドに届けられました2。預言者ムハンマドがおよそ40歳のとき、彼は物思いにふけるようになりました。彼がこよなく愛した妻のアーイシャによると3、彼は鮮明な夢を見るようになり、隠遁を好むようになりました。彼はヒラーの洞窟にこもり、唯一なる神を崇拝し、人生、宇宙、そして世界における自らの立ち位置について考え込みました。
あるラマダーンの夜、彼のもとに天使が現れ、彼に読むよう命じました。文盲だった預言者は、「私は読むことが出来ません」と答えました。すると天使は彼を無理やり掴み、耐え難いほどに彼の胸を押し付けました。天使は彼を放すと、再び彼に読むよう命じました。彼はまた「しかし私は読むことが出来ません」と答えました。ムハンマドが読むことが出来ないと伝える度に、天使は彼を無理やり掴み、そのやりとりが3度繰り返されると、天使はクルアーンの最初の言葉を伝えたのです。4
“読め、「創造なされる御方、あなたの主の御名において。一凝血から、人間を創られた。」読め、「あなたの主は、最高の尊貴であられ、筆によって(書くことを)教えられた御方。人間に未知なることを教えられた御方である。」”(クルアーン96:1−5)
ムハンマドが恐怖におののいたこの啓示の後、次に天使ガブリエルが現れたのは、彼が一人で歩いていた時でした。空から声が聞こえたため、彼が上を向くと、空と地上の間の椅子に天使が座っているのが見えました。ムハンマドは怖くなって駆け足で家に戻り、寝具の中に身を包みました。この時が第2の啓示でした。5
“(大衣に)包る者よ、立ち上って警告しなさい。”(クルアーン74:1−2)
その後23年間にわたり、預言者ムハンマドの死の直前まで、クルアーンは段階的に啓示されました。それにはいくつかの理由があるとされています。一部では、預言者ムハンマドの手助けとなるよう、問題が発生する度にゆっくり啓示が下された、というものです。
預言者の妻アーイシャは、預言者ムハンマドが神の啓示がどのように下されたのか尋ねられたときに、こう答えたと伝えています。「時に、それは鐘が鳴るようなものであり、その啓示がすべての中でも最も辛く、その状態が終わったとき、私は啓示された内容を把握する。また時には、天使が人の姿をして現れ、私に語りかけ、私は彼の言う事を把握する。」6イブン・アッバースは、預言者ムハンマドが啓示の際、「多大な困難の中、唇を小刻みに動かして」7それに耐えていたと述べています。クルアーンの言葉が啓示されると、預言者ムハンマドはその暗記に取り組んだといわれています。
暗記は重要視され、イスラームの初期においても広く実践されていました。預言者ムハンマドは教友たちがクルアーンの暗記をするよう求め、啓示が暗記によって保持されることを確実にさせるために様々な方法をとりました。預言者ムハンマドの伝記のなかでも最も初期のものの一つを編纂したイブン・イスハークによると、ムハンマドの後にクルアーンを公に朗誦した最初の人物はアブドッラー・ブン・マスウードで、そのために彼はひどい虐待を受けました。預言者ムハンマドに最も近い教友のアブー・バクルも、マッカの自宅の外でクルアーンを朗誦したことが知られています8。
クルアーンは預言者ムハンマドの生前に教友たちによって暗記され、その伝統はその後の世代によって受け継がれました。今日も、アラビア語を読めないムスリムたちでさえ、西暦7世紀にアラブ人たちが覚えていた同じ言葉を暗記しています。預言者ムハンマドを含む、アラブ人の大半は文盲でしたが、文章を読むことの出来る重要性はよく理解されています。
神の啓示を保持することは、最重要の案件でした。それゆえ、信頼と知識のある人々がクルアーンの言葉を記憶し、筆写しました。そこには、ムスリム国家の指導者としてムハンマドの後継者となった4人に加え、その後の世代におけるクルアーン保持の要となるザイド・ブン・サービトが含まれました。
筆写の媒体は入手困難だったため、当初は動物の皮、薄く色あせた石、骨、樹皮などにクルアーンが断片的に記されていました。教友たちは啓示された言葉を書き記して朗誦し、預言者ムハンマドは教友たちが間違って書き写していないよう、注意深く聞き取りました。クルアーンは預言者ムハンマドによる直接の監修の元、書き写されたと言うことが出来るでしょう。クルアーンは順序を追って啓示されたのではありませんでしたが、天使ガブリエルは預言者ムハンマドに対して、どのようにまとめられるべきか正しい順番を教えています。
Footnotes:
1 守護された碑版(アッ=ラウフ・アル=マハフーズ)とは、神によってすべての被造物の定めが書き記された書です。それは、創造以前から神と共にあったものです。
2 Suyuti’ in Al Itqan Fi Ulum Al Quran, Beirut, 1973, Vol. I pp. 39-40 based on three reports from 'Abdullah Ibn 'Abbas, in Hakim, Baihaqi and Nasa'i.
3 サヒーフ・ブハーリー
4 ここで啓示されたのは最初の啓示であり、最初の章ではありません。クルアーンの章は啓示の順番には並べられていません。
5 サヒーフ・ブハーリー
6 同上
7 同上
8 イブン・ヒシャーム
コメントを付ける